Q:キッチンのガスコンロをIHに替えたのですが、これまでのように行きません。

同じ悩みをかかえた方からの質問を、これまでも数えきれないほど受けてきました。


テレビのコマーシャルを見ていると、IH(電磁調理器)には、ガスコンロにはあるゴトクが無くて、表面はピッカピカで真っ平ら。
スッキリしているし、モダンな感じもするし、清潔そうだし、恰好いいし、手入れも簡単そうだし、宣伝文句通りクリーンな感じもする。


しかし、どんな道具の場合でも、絶対に忘れてはいけない“原理原則”があります。
それは、長所しかない道具なんて無い、長所もあるけれど必ず欠点もあるってことです。
道具を「使いこなす」ということは、道具の長所を上手に生かしながら、欠点が出ないように、欠点を克服するように使うということです。
このことが大事なんです。
どんな使い方をしても、何の問題も起きない道具なんて無い。
このことを知ることが、道具を「上手に使いこなす」基本です。


自動車を運転する時、ハンドルを右に切れば、自動車は右の曲がります。
決して左には曲がりません。
そんなこと当たり前と思うでしょうが、それは現在の日本人が自動車のことを知っているからで、昔、自動車が普及する前は、殆ど誰も知らなかったことです。


IHも全くこれと同じです。
IHの発熱のしくみは、殆どの方に、まだ正確には認識されてはいないでしょう。
これが実情だと思います。


「エッ!本当」と思うかもしれませんが、ガスコンロとIHは、実は全く違う「調理用熱源」なのです。
ですから、ガスコンロと同じだと思って使うと、勝手が違うことがいろいろと起きてきます。


ガスコンロとIHの根本的な違いについて説明します。
ガスコンロの場合は「炎」がありますから、コンロ側が「発熱」します。
そして、コンロの上に乗る「鍋」や「フライパン」の底面を炎が包み込むように“加熱”します。
ところがIHの場合は、これとは全く異なり、IH自体は全く「発熱」しません。
IHは、ガラスのトッププレートの上に乗る「鍋」や「フライパン」の底面を“発熱”させるという仕組みなのです。
ガスコンロとは全く違いますね。


IHのトッププレートのすぐ下には銅線がドーナツ状に巻かれています。
この銅線に電気を流すと、銅線の上の部分、つまり鍋やフライパンの底面のドーナツ状部分が発熱し、この部分だけが急激に温度が高くなります。
回りの温度が上がる速さは、鍋やフライパンに使われている金属の熱伝導率によって、早い遅いが決まります。


底面のドーナツ状部分が発熱するのですから、お湯を沸かす時でも、一見IHは早く沸騰するように見えますが、それはドーナツ状部分の上だけのことなのです。
鍋全体の水が、早く沸騰するということではありません。
実際に「IHでお湯を沸かすと、早く沸騰するけれど、冷えるのも早いのよね」と言う声をよく聞きます。
スウィッチを切ると、沸騰したドーナツ状部分のお湯と、まだ沸騰していないドーナツ状部分以外の低い温度のお湯が混ざりますから、鍋のお湯全部が沸騰したガスコンロで沸かしたお湯よりも早く冷えるのは当然のことです。
この事から分かるのは、「煮物」をする時、混ぜながら調理しないと、ドーナツ状部分の上は煮えているけれど、それ以外の部分は「生煮え」になりやすいということです。
もうお分かりだと思いますが、煮ている途中で、時々、お鍋の中全体をよく混ぜる、これをきちんと行えば、「煮えムラ」は解消されます。


次に、もっと基本的で重大な問題について説明します。
それは、IHの発熱の仕組みに原因があるのですが、IHでは使えない、あるいは発熱効率が低い金属があることです。
当初のIHでは、、「鋳鉄製」「鋼板製」「磁性ステンレス製」の鍋やフライパン以外は使えませんでした。
しかし、これでは、それまで家庭で使っていた「銅製、アルミ製」の鍋やフライパンが無駄になるため、改良型のIHが出てきたのです。
それでも「鋳鉄製」「鋼板製」「磁性ステンレス」と比べると、明らかに発熱効率が約35%ほど低くなります。
これは、そもそもIHが金属を発熱させる仕組み、及び、それぞれの金属が持つ特性の問題ですから、致し方のない問題、これ以上は無理ということです。


最後にもう一つ、悩ましい問題があります。
それは、あの堅い金属の場合でも、金属の温度が上がると、温度が高くなった部分の体積が膨張することによって発生する問題です。
「鍋」や「フライパン」の底面のドーナツ状部分だけが、急激に発熱し、温度が高くなるのですから、その部分だけが膨張します。
その結果、どうしても鍋やフライパンの底面が変形します。
この底面の変形量を少なくするように使うこと、これがIHを上手に使う、もう一つのポイントです。


ガスコンロなら、底面全体を炎が包み込むように加熱しますから、適正な調理温度まで上げる速さに気を使う必要はありませんが、IHの場合は急激に温度を上げれば、当然、底面の変形量が大きくなります。
つまり、「とにかくゆっくり温度を上げる」こと、これが大きなポイントです。
発熱するドーナツ状部分と、それ以外の部分との「温度差」を、できるだけ小さく保ちながら、温度を上げて行くことで、底面の変形量を少なく出来ます。
そのためには、「ゆっくり温度を上げて行く」必要があるということです。
これは、鍋やフライパンを長持ちさせることにもつながりますので、是非実行してください。


最近は、初期加熱は、スウィッチを入れると、自動的に低いパワーでスタートし、温度の上昇に合わせてパワーが強くなるという機種に変わっています。
しかし、そうではない機種を使っていらっしゃる方も多いので、基本はきちんと知っておかれた方が良いと思います。


最後に、もう一度申し上げます。
どんな道具の場合でも、それぞれ適した使い方があります。
人間がそれを知って、上手に「使いこなす」、これが大切です。

どうぞIHと、上手に付き合って下さい。

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プロフィール

岡山晄生

Author:岡山晄生
--Okayama Akio----------
株式会社リバーライト代表
調理道具研究家・家庭料理アドバイザーとして講演・執筆活動なども行なっている。著書に『料理のきほん食の常識』(グラフ社)等


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