Q:料理上手になるにはコツを覚えればいいのかしら?

テレビの料理番組を見ていると、コツを教えて下さいとか、どこがコツなんですかとおっしゃる方が、確かに沢山いらっしゃいますね。


しかし、よく考えてみて下さい。
毎日、私たちがいただく食事に使われる「食材」のすべてが、自然の恵みであることを。


太陽の力、大地の力、海の力、川の力、湖や沼の力、地球を取り巻く大気の力、そしてその土地土地の気候、これらの力によって、私たちが毎日いただく「食材」が作られて行くのです。
ですから、どんな食材の場合でも、どのように調理したら美味しくなるかは、自然の恵みである食材から教えてもらう、これが正しいあり方なのです。


私が若い時、東京の一流ホテルの有名な総料理長から言われた言葉があります。
「料理人にも、超一流から駆け出しまでいるけれど、一流になればなるほど、そして超一流に近づけば近づくほど、食材に向き合う姿勢は謙虚になるものなんだよ。この食材をどう扱えば、どう調理すれば素晴らしい料理になるかは、目の前にある食材から聴くんだよ。」
「目の前の食材をどう調理するか、ここでは人間のわがままは通用しないのだよ。」


この時に聞いたこの言葉は、私は生涯忘れません。
まさに、目からうろこでした。
納得させられました。


自然の恵みである、目の前の食材から教わるしか方法はないのですね。
ですから、料理、調理は「自然科学」そのものと言えます。
料理は、自然の理(ことわり)を料(はかる)という意味ですし、
調理は、自然の理(ことわり)を調べるという意味です。
自然の恵みである食材から、それぞれの食材の理(ことわり)を教しえられることで、最適な扱い方(調理法)が分かるのですね。


今日でもまだまだ、優れた感性の持ち主は、食材からいろいろと教わりながら、新しい調理法を見つけ続けています。
謙虚で、食材から教わる感度が鋭敏で、教わったことを実現する優れた技術の持ち主が優れた料理人ということになります。
しかし、これはプロの世界に限ったことではありません。
家庭の料理上手、料理名人にも言えることです。


皆さん、全ての食材を、目でしっかり観ましょう、手で触って手でも感じましょう、匂いを嗅いでみましょう、私たちが持っている五感の全てを動員し、しっかり感じましょう。


自然の恵みである食材と、素直な気持ちで向き合って、どのように調理されたがっているのか、しっかりと感じましょう。
自然は偉大です。
自然から、しっかりと教わりましょう、自然を十分に感じましょう。


そして、私たち人間も、偉大なる自然が生み出した存在であることを、感謝しながら受け止めてみませんか。

Q:加熱調理について分かりやすく説明してください

テレビの料理番組では、「焼きます」「揚げます」「炒めます」「煮ます」「蒸します」「炊きます」としか言いませんし、調理の本にもそのようにしか書いてありませんね。
もう少し科学的に、あるいは理屈を知りたいという方には、このような表現だけでは、確かに物足りないかもしれませんね。


調理は「自然科学」ですから、理屈が分かってしまえば決して難しいことではありません。
調理では、よく「コツ」という表現が使われますが、「コツ」ではなく「科学的な理屈」を知るという姿勢が大事なのだと思います。


さて、まず最初に、加熱調理は、二つに分類されることを理解してください。
「食材に水分を加えながら加熱する調理法」と「食材から水分を奪いながら加熱する調理法」に分かれます。


ご家庭で、コンロやIHの上で鍋やフライパンを使って「加熱調理」を行っている時には、普通はこの違いなど意識していらっしゃらないと思います。
しかし、この二つは全く真逆の調理法ですので、しっかりと意識していただきたいと思います。


(1)「茹でる・煮る・炊く・蒸す」、これらは「食材に水分を加えながら加熱する調理法」で、『湿熱調理法』といいます。「加水調理法」と言ってもよいでしょう。
私たちが暮らす平地の気圧は、通常では約1気圧ですが、この状態では水は100℃で沸騰しますから、この調理法では調理温度が100℃を超えることはありません。
唯一の例外は、お鍋内部の気圧を高くして調理する圧力鍋の場合です。圧力鍋によって多少の差がありますが、水が沸騰する温度が120~125℃になるように設定されています。100℃を超えたこの温度で煮ると、通常なら煮込むのに数時間かかる食材が、20~30分程度で煮上がります。


(2)「焼く・炒める・揚げる」、これらは「食材から、食材に含まれている水分を奪いながら加熱する調理法」で、『湿熱調理法』といいます。食材から水分を奪うのですから「脱水調理」と言えます。
この調理法の場合は、調理温度が100℃を超えますので、「どの食材をどういう状態に仕上げる」かによって調理温度が異なるとお考えください。
卵を焼く温度、厚みのあるステーキを焼く温度、薄い肉を焼く温度、コロッケを揚げる温度、野菜炒めの温度、チャーハンの温度、エビを揚げる温度、大葉を揚げる温度、こうしたことを身に着ける必要があります。
難しそうに感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、わりとすぐに身に付きますので心配はご無用です。
この件に関しては、また別の機会に書いてみたいと思います。


今回は、加熱調理と言っても、「湿熱調理」と「乾熱調理」では、熱を加える以外は、全く違うということを是非覚えていただきたいと思います。

Q:キッチンのガスコンロをIHに替えたのですが、これまでのように行きません。

同じ悩みをかかえた方からの質問を、これまでも数えきれないほど受けてきました。


テレビのコマーシャルを見ていると、IH(電磁調理器)には、ガスコンロにはあるゴトクが無くて、表面はピッカピカで真っ平ら。
スッキリしているし、モダンな感じもするし、清潔そうだし、恰好いいし、手入れも簡単そうだし、宣伝文句通りクリーンな感じもする。


しかし、どんな道具の場合でも、絶対に忘れてはいけない“原理原則”があります。
それは、長所しかない道具なんて無い、長所もあるけれど必ず欠点もあるってことです。
道具を「使いこなす」ということは、道具の長所を上手に生かしながら、欠点が出ないように、欠点を克服するように使うということです。
このことが大事なんです。
どんな使い方をしても、何の問題も起きない道具なんて無い。
このことを知ることが、道具を「上手に使いこなす」基本です。


自動車を運転する時、ハンドルを右に切れば、自動車は右の曲がります。
決して左には曲がりません。
そんなこと当たり前と思うでしょうが、それは現在の日本人が自動車のことを知っているからで、昔、自動車が普及する前は、殆ど誰も知らなかったことです。


IHも全くこれと同じです。
IHの発熱のしくみは、殆どの方に、まだ正確には認識されてはいないでしょう。
これが実情だと思います。


「エッ!本当」と思うかもしれませんが、ガスコンロとIHは、実は全く違う「調理用熱源」なのです。
ですから、ガスコンロと同じだと思って使うと、勝手が違うことがいろいろと起きてきます。


ガスコンロとIHの根本的な違いについて説明します。
ガスコンロの場合は「炎」がありますから、コンロ側が「発熱」します。
そして、コンロの上に乗る「鍋」や「フライパン」の底面を炎が包み込むように“加熱”します。
ところがIHの場合は、これとは全く異なり、IH自体は全く「発熱」しません。
IHは、ガラスのトッププレートの上に乗る「鍋」や「フライパン」の底面を“発熱”させるという仕組みなのです。
ガスコンロとは全く違いますね。


IHのトッププレートのすぐ下には銅線がドーナツ状に巻かれています。
この銅線に電気を流すと、銅線の上の部分、つまり鍋やフライパンの底面のドーナツ状部分が発熱し、この部分だけが急激に温度が高くなります。
回りの温度が上がる速さは、鍋やフライパンに使われている金属の熱伝導率によって、早い遅いが決まります。


底面のドーナツ状部分が発熱するのですから、お湯を沸かす時でも、一見IHは早く沸騰するように見えますが、それはドーナツ状部分の上だけのことなのです。
鍋全体の水が、早く沸騰するということではありません。
実際に「IHでお湯を沸かすと、早く沸騰するけれど、冷えるのも早いのよね」と言う声をよく聞きます。
スウィッチを切ると、沸騰したドーナツ状部分のお湯と、まだ沸騰していないドーナツ状部分以外の低い温度のお湯が混ざりますから、鍋のお湯全部が沸騰したガスコンロで沸かしたお湯よりも早く冷えるのは当然のことです。
この事から分かるのは、「煮物」をする時、混ぜながら調理しないと、ドーナツ状部分の上は煮えているけれど、それ以外の部分は「生煮え」になりやすいということです。
もうお分かりだと思いますが、煮ている途中で、時々、お鍋の中全体をよく混ぜる、これをきちんと行えば、「煮えムラ」は解消されます。


次に、もっと基本的で重大な問題について説明します。
それは、IHの発熱の仕組みに原因があるのですが、IHでは使えない、あるいは発熱効率が低い金属があることです。
当初のIHでは、、「鋳鉄製」「鋼板製」「磁性ステンレス製」の鍋やフライパン以外は使えませんでした。
しかし、これでは、それまで家庭で使っていた「銅製、アルミ製」の鍋やフライパンが無駄になるため、改良型のIHが出てきたのです。
それでも「鋳鉄製」「鋼板製」「磁性ステンレス」と比べると、明らかに発熱効率が約35%ほど低くなります。
これは、そもそもIHが金属を発熱させる仕組み、及び、それぞれの金属が持つ特性の問題ですから、致し方のない問題、これ以上は無理ということです。


最後にもう一つ、悩ましい問題があります。
それは、あの堅い金属の場合でも、金属の温度が上がると、温度が高くなった部分の体積が膨張することによって発生する問題です。
「鍋」や「フライパン」の底面のドーナツ状部分だけが、急激に発熱し、温度が高くなるのですから、その部分だけが膨張します。
その結果、どうしても鍋やフライパンの底面が変形します。
この底面の変形量を少なくするように使うこと、これがIHを上手に使う、もう一つのポイントです。


ガスコンロなら、底面全体を炎が包み込むように加熱しますから、適正な調理温度まで上げる速さに気を使う必要はありませんが、IHの場合は急激に温度を上げれば、当然、底面の変形量が大きくなります。
つまり、「とにかくゆっくり温度を上げる」こと、これが大きなポイントです。
発熱するドーナツ状部分と、それ以外の部分との「温度差」を、できるだけ小さく保ちながら、温度を上げて行くことで、底面の変形量を少なく出来ます。
そのためには、「ゆっくり温度を上げて行く」必要があるということです。
これは、鍋やフライパンを長持ちさせることにもつながりますので、是非実行してください。


最近は、初期加熱は、スウィッチを入れると、自動的に低いパワーでスタートし、温度の上昇に合わせてパワーが強くなるという機種に変わっています。
しかし、そうではない機種を使っていらっしゃる方も多いので、基本はきちんと知っておかれた方が良いと思います。


最後に、もう一度申し上げます。
どんな道具の場合でも、それぞれ適した使い方があります。
人間がそれを知って、上手に「使いこなす」、これが大切です。

どうぞIHと、上手に付き合って下さい。
プロフィール

岡山晄生

Author:岡山晄生
--Okayama Akio----------
株式会社リバーライト代表
調理道具研究家・家庭料理アドバイザーとして講演・執筆活動なども行なっている。著書に『料理のきほん食の常識』(グラフ社)等


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