Q:プロから教わった美味しい「牡蠣フライ」の作り方

今年もいよいよ寒くなってきました。
広島生まれの私は、毎年このぐらい寒くなると、「そろそろ牡蠣の季節だな」と思い始めます。
今年も既に、故郷の牡蠣養殖業者に発注しました。
週末は、この冬最初の牡蠣を頂きます。



牡蠣好きにとっては、それぞれ好みの食べ方があるでしょうが、今回は「プロから教わった牡蠣フライの作り方」を紹介させていただきます。
もちろん、我が家もこの方法で調理しています。


ご紹介する前に、かつて経験したことを一つだけ書かせていただきます。
それは、隅田川の近くに店を構える洋食屋さんでのことです。
もう随分前のことですが、この店で「牡蠣フライ」を食べた時、美味しかったこともありますが、私が忘れもしない牡蠣の味だったので、思わず店主に「親父さん、この牡蠣は的矢の佐藤さんの牡蠣ですよね」と話しかけてしまったことがあります。
「お客さん、やはり分かりますか。その通りですよ。やはりここの牡蠣は素晴らしいですね」、というやり取りがありました。
そして後日、この店で素敵なことがありました。
知り合いの業務用の調理道具メーカーの社長と一緒に、またこの洋食屋さんに行った時のことです。
その春に高校を卒業して、このメーカーに就職した若い女性社員二人が一緒でした。
その一人が「牡蠣フライ」と聞いて、「すみません、私、牡蠣フライは好きじゃないんです」と返事しました。
本当に食べられない人に無理強いしちゃいけませんが、好きじゃないというなら可能性があると思い、思わず「お嬢さん、全く食べられないなら無理は言いませんが、ほんのちょっとチャレンジしてみませんか? それでダメならやめればいいのですから」と、おせっかいをしてしまいました。
恰幅のいい店の主も、「そうですよ、口に入れて合わなかったら止めればいいから、ちょっとだけ試してみたら?」と話しかけてくれました。


まだ18歳の女性新入社員は、社長の前ですからきっと無理したのかもしれませんが、「ちょっとチャレンジしてみます」と言って、ちょっとかじりました。
ところが、ほんの一瞬後には、一個丸ごと食べていました。
「これが牡蠣フライなんですか、本当に美味しい!」と言って、結局10個ほどの牡蠣フライを平らげてしまいました。18歳の女性社員が、それまで知らなかった最高の味に出会った瞬間に立ち会ってしまったのです。
無理強いしてはいけないと思いつつ、勧めるのはまずいかなという気持ちもあったので、嬉しさ半分、ホッとしたのが半分でしたが、一人の女性が一皮むけた瞬間です。はっきり言って、かなり感動したことを今でも覚えています。
同時に、「本当に美味しい食べ物の力」を思い知らされた瞬間でもありました。


さて、前置きはこれくらいにして、「美味しい牡蠣フライ」に移ります。
どんな料理の場合でも同じですが、まずは「良い食材」を選ぶ事、これで大勢は決まってしまいます。
牡蠣は、海から引き上げてから、傷みの進みが早い食材です。
良い海で育った良い牡蠣を、海から上げて、どれだけ短時間で口に入れるかが、最も重要なポイントです。
良い牡蠣に言葉はいりません。
牡蠣は、海から貰った栄養、滋養の塊です。本当に美味しい。
しかも、育った海によって、味の特徴が異なるのです。
広島の牡蠣、岡山の牡蠣、伊勢の牡蠣、松島の牡蠣、新潟の岩垣、北海道厚岸の牡蠣、それぞれ特徴のある味と甘さ、冬は牡蠣好きには嬉しい季節です。
「生牡蠣」「焼き牡蠣」「蒸し牡蠣」「牡蠣のオイル漬け」「牡蠣ご飯」、どれも美味しいですが、極め付きは「牡蠣フライ」でしょうか。
私が洋食屋さんのオーナー料理人から教わった「美味しい牡蠣フライの作り方」を説明します。


美味しい新鮮な牡蠣を購入して下さい。
今では、牡蠣の養殖業者もホームページを開いているので、産地から直接購入することが出来ます。
「牡蠣フライ用」と言って注文すればいいと思います。


(1)牡蠣の下ごしらえ
ポイントは一つです。
何度も水で、丁寧に綺麗に洗ってしまう方が多いようですが、これは厳禁です。
牡蠣の旨みと栄養分を、どんどん捨ててしまってはいけません。
新鮮な牡蠣は、ザルに移すだけで、水分を拭き取ることはしないようにしましょう。
但し、すでに牡蠣の表面に「ぬめり」がある場合は、大根おろしで「ぬめり」を取り除きましょう。


(2)小麦粉のまぶし方
牡蠣に小麦粉をまぶしますが、ここでの注意ポイントは、小麦粉ははたかない。
小麦粉は、タップリ、隙間なくまぶす必要があります。
理由は、二つあります。
一つ目は、「旨みを閉じ込めるため」です。
二つ目は、こうすると牡蠣の水分が漏れ出ないので、揚げた時に「パチパチと油がはじける」ことが無くなります。揚げ物調理が怖い原因は、油が水をはじくことですから、はじけないのは助かります。


(3)使用するパン粉
小麦粉をまぶしたら、溶いた卵で完全にくるんで、次にパン粉をまぶします。
この時、牡蠣に万遍なくパン粉をまぶすために、「生パン粉」を使って下さい。
「乾燥パン粉」を使う方が多いようですが、パン粉が固いと、びっしりと万遍なくまぶすには、硬い「乾燥パン粉」では難しくなります。柔らかい「生パン粉」だからこそ、隙間なくびっしりとまぶせることをお忘れなく。


(4)パン粉のまぶし方
たっぷりのパン粉の上に牡蠣を置いたら、上からパン粉をかけて押してしまう方が多いですが、これも厳禁です。
上から押すと、牡蠣は柔らかいので、厚みのある個所と薄っぺらな個所が出来てしまいます。
そうなると、火の通りが均一になりません。その結果、全体が美味しいという具合にはならないのです。
正しいパン粉のまぶし方は、牡蠣の上からたっぷりパン粉をかけて、パン粉ごと手ですくい、まるでクリームコロッケのような丸い形に仕上げるということです。


(5)油への投入方法
いよいよ牡蠣を油に入れますが、パン粉でくるまれた牡蠣全体を手でくるむように持って、形を崩さないように優しく油に滑り込ませます。はじっこを指でつかんで入れたりすると、その部分はパン粉が裂けてしまい、そこから旨みが逃げてしまいますし、水分も出ていってしまうので、油もはじけます。


(6)揚げ油の温度と揚げる時間
揚げ油の温度は175℃です。そして揚げる時間は2分強です。
多くの方は4分ぐらいの時間をかけているようですが、これでは完全に揚げ過ぎです。
2分強ですと、油から引き上げた時は、約8割程度「火が入った状態」ですが、余熱で芯まで熱が入っていきますので、食べる時に丁度“ふっくらジューシー”という状態になります。
この「余熱」ということを覚えておくと、加熱調理の腕はグーンと上がります。
実際、4分も揚げてしまうと、食べる時には熱が入り過ぎ、牡蠣の芯まで固まってしまい、とてもじゃありませんが「ふっくらジューシー」とはいきません。
牡蠣は「海のミルク」とも言われます。
クリーミーな甘さが牡蠣の命、やはり「ふっくらジューシー」が美味しいですね。


いかがですか?
きっと読んでいるだけで「美味しそう」といった気持ちになるのではないでしょうか。
家族全員が、「フハ!フハ!」しながら、揚げたての「衣はカリッと香ばしくて、中身はクリーム状のアツアツ牡蠣フライ」を食べるなんて、なかなかのものです。
ここに、白ワインがあれば、いう事なしですね。

Q:美味しいハンバーグ

先日、偶然、「ハンバーグステーキのルーツを尋ねる」TV番組を見ました。
ドイツのハンブルグがルーツで、ハンブルグがドイツの代表的な貿易港だったことから、世界に広がったという説明でした。きっと昔の船乗りや、船の料理人たちが、様々な国に伝えたのでしょうね。
ということで、今回は「美味しいハンバーグ作り」です。


まず最初に、ハンバーグは、お肉の旨みを味わう肉料理のひとつだということをご理解して下さい。 
このことを知っているかどうか、これが大切なポイントです。
ハンバーグというと、お肉は挽肉、ということになりますが、お肉の旨みを味わうことを意識すると、ポイントは三つあります。


(1)ひとつ目は、お肉の食感です。
メインの牛肉は、食感も楽しみたいので、細かく挽過ぎてはいけません。
ハンバーグを口の中に入れた時に、お肉のツブツブをしっかり感じることができることが重要です。
従って、「メインとなる牛肉は粗く挽く」のが「コツ」です。
手間ひまをかけることが嫌いじゃないならば、お肉屋さんで「切り落とし」を買ってきて、包丁で叩くのが最高です。
この方法だと、自分好みの大きさのツブツブにできますし、いろいろと調整もできます。


(2)二つ目は「脂肪」です。
つまり、赤身だけの牛肉では美味しくないということです。
お肉は、加熱する時、実は脂肪が適度にある方が美味しくなります。
サラダ油で揚げたご家庭のコロッケと、お肉やさんがラードで揚げたコロッケでは、美味しさが全く違います。
白いままの脂肪には旨みは殆どありませんが、この脂肪に熱を加えると旨みがグンと出てくるのです。 
適度に「さし(脂肪)」が入った牛肉を使いましょう。


(3)三つめは、メインの牛肉をつなぐ「つなぎ」の豚肉の挽肉です。
これはつなぎですから、しっかり挽いた挽肉を買って下さい。
肝心の牛肉と豚肉の割合ですが、7対3が基本と覚えて下さい。
基本という意味は、好みによって多少比率を変えれば良いということです。


以上がお肉についてポイントです。
次は、味について説明します。
そもそもハンバーグは、あらかじめある程度まで味を付けて、ステーキとは違う美味しさを楽しむ料理ですので、前もって塩、胡椒、卵、刻んだたまねぎ(事前に炒める必要は全くありません、私の体験ではただ微塵にした生のタマネギの方がハンバーグの場合は美味しいと思います)、そしてつなぎにあらかじめ牛乳でふやかしたパン(ふちを取り除いた柔らかい白い箇所)を混ぜて練ります。
ここでも、重要なポイントが二つあります。


(1)混ぜて練る時にお肉が温まらないようにすることです。
なぜかと言いますと、温度が高くなるとお肉がくっつきにくくなるからです。
理想的な方法は、大きいボールに氷と水を入れ、その上に小さなボールを置き、ここでハンバーグの種を練るという方法ですが、実はこれはかなりやりにくい。
そこでお肉を事前に冷蔵庫で冷やしておく、これを練る直前に取り出し、他のものと混ぜて練る、このやり方をお勧めします。
(2)よくTVなどでもやっていますが、ねっとりとして表面が白くなるまで練ります。 
この時、せっかく粗く挽いた牛肉をつぶしたのでは意味がないので、牛肉をつぶさないように練って下さい。食感が全く違います。


さて、練りが終わったら、ひとつひとつ形を整える段階になります。
ハンバーグの中に空気が入らないようにしながら、形は丸でも楕円でも結構ですから、真ん中がへこむようにします。
両方の手に油を塗って、種を手に取り、両方の手の間を行き来させることで、中の空気が抜けます。
上手に焼くと、へこました中心が膨らんできます。


さて、いよいよ焼く段階に入ります。
ハンバーグの芯にしっかりと熱が入り、表面の焦げ色が黒くはならないことが「焼き方」のポイントです。
使用するフライパンは、熱量の大きい鉄のフライパン、セラミックのフライパンが向いています。
フライパンに油を引き、火加減は中火で温めます。
手をかざし、熱い!っと感じるようでは温度が高過ぎます。
結構温かいなと感じる程度がベストです。
ここへ種を入れ焼き始めますが、この時、「ジュッ!」という短い音がする場合は温度が高過ぎます。
「ジューッ」といった音、「ジュジュジュー」といった音がするのが適温です。
下の方がうっすらと色が変わってきたら、火をやや弱めます。
下から二分の一ぐらいまで色が変わったら、ひっくり返します。
火加減はそのまま、今度はフライパンに蓋をして下さい。
こうすると芯まで火が通りやすくなります。
やがて、へこんでいた中心がしっかりと盛り上がってきます。
これは肉汁がしっかりとたまってきているサインです。ここで火を止めます。
1~2分ほど、蓋をして、このままにしておきましょう。
フライパン全体の余熱で、さらにハンバーグ全体に均一に熱が行き渡ります。


これを、野菜の点けあわせと共に温かいお皿に盛り付け、お好みのソースを用意します。


ハンバーグというと、肉の臭みを取るため「ナツメグ」を入れるのが常道ですが、今回は、混ぜて練る時、ナツメグを入れない説明をいたしました。
これは、最近のお肉の味のクセが昔ほど強くないことが理由です。
そもそも香料は、味を良くするためにも使いますが、いやなクセを抑えるためにも使います。
最近の肉はそのようなクセが無かったり、弱くなっていますので、使う必要のない場合もあるということです。
それと今回は、タマネギを事前に炒めずにと書きました。タマネギを炒めるポイントは、十分に甘みを引き出すことにありますが、ハンバーグの場合は、焼く過程で出る甘みで十分だと思います。
何度も両方を試してみましたが、この方が合っていると思います。
もちろん、私は事前に炒めたタマネギを使ったハンバーグの方が好きだという方もおられると思います。これは好みの問題でもありますので、どうぞお好きな方をお選び下さい。

Q:プロが作るようなトロトロオムライスが自分でできたら・・・。

何年ぐらい前からでしょうか、時々テレビ番組で、プルンプルンの楕円形のオムレツをチキンライスの上に乗せてから真ん中に切り目を入れると、中の半熟部分がとろけ出すといったオムライスを見るようになりました。
私も、こんなオムライスが作りたくて、何度か挑戦しました。
しかし、どうがんばっても、なかなか理想的な半熟状態にはなりません。
内部が、フワフワトロトロのオムレツを作るのが、思いのほか難しい。
少し固まりすぎてしまって、切っても中身がとろっと出てこなかったり、とにかく卵をちょうど良い半熟状態にするのが難しい。

要は、完璧な「プレーンオムレツ」を作ることが出来るか出来ないかです。
これさえ出来れば、「楕円形のプレーンオムレツをライスの上に乗せてから真ん中に切れ目を入れて、中の半熟な部分が「トローッ!」ととろけ出すといったオムライス」が出来ます。
 
もう35年になるでしょうか、一時期美味しいオムレツに凝って、あちこちのレストランにオムレツを食べに行ったことを思い出します。
私がカウンターに座るや、お店の主から「今日もオムレツ?」って言われるほど通いました。
カウンターの向こうで、フライパンを優雅に操る店のオヤジを見ていて、「完璧なプレーンオムレツ」となると、プロでも結構難しいのかも、と生意気にも感じたものです。


ただ半熟というのではなく、オムレツ内部の卵がしっかりと泡立っていて、なおかつ半熟なのですね。 
こういうオムレツは当然の結果として「丸く、高く、ふっくらと盛り上がっていて、プルンプルン」しています。 
オムレツの内部がただ半熟というぐらいならば、一人前のちゃんとしたプロならば誰でも出来るかも知れませんが、泡の立ち方まで完璧となると、かなりのレベルのプロじゃないと無理なのかな、というのが当時私が持った印象です。
ま、ここまで行かなくても「納得できるレベルのプレーンオムレツ」を作れるようにならないと、「とろとろオムライス」は無理だということがよく分かりました。


話は変わりますが、こんな話し、ご存知ですか?
スペインに伝わっている昔話です。
スペインの王様が、何人ものお供をつれて田舎を散策している時、王様は急にお腹が減ったようで、「なにか食べたい、至急用意しろ」とお供に命じました。 
なんにもないスペインの田舎ですので、困り果てたお供は近くの家に飛び込み、家の人に「王様が急になにか食べたいと言っている。 なんでもいいから至急なにか料理してくれ」と頼み込んだのです。 
家の人は、すぐに卵を溶き、それをフライパンに流し込み、固まらないようにすばやくかき混ぜ、形を整えてお皿に盛り付けて、王様の前に出しました。
家の人の、あまりの手際の良さに感心した王様は「Quel homme leste !(ケロムレスト)」と叫んだのだそうです。 
「なんて素早い男だ」といった意味です。 
この「hommelest (オムレスト)」がオムレツの語源だという説があります。


オムレツを作る手順を説明します。
一人前の場合、卵を2個用意して下さい。 
① この卵をボールに割りほぐして、お塩と胡椒を加えて混ぜます。
② 次に、コンロの上で温めたフライパンにバターをいれ溶かします。
③ バターが溶けたら、フライパンに、すでに用意してある溶いた卵を一気に入れ、卵に空気がたっぷりと含まれるように大きく混ぜ、卵が半熟状になったら、卵がこれ以上固まらないようにするため、フライパンを火から離したり、近づけたり調節しながら、フライパンの取っての向い側の丸みを利用しながら形を整え、お皿に移します。


ポイントは、フライパンの温度が上がり過ぎないように、かといって下がり過ぎないように、フライパンを火から離したり近づけたりしながら、フライパンの温度をコントロールすること、そして卵にたっぷりと空気を含ませること、この二つです。


言葉で説明すると、たったこれだけのことなのですが、問題は「卵の状態を見ながら、卵に伝わる温度を敏感に感じながら微妙にフライパンの温度をコントロールし、しかも手早く作業ができる感性と訓練度」です。
失敗は成功の母、練習するしかありません。


最近は、自分で料理するのが面倒だとかいって、外食する人が沢山います。 
しかし本当は、自分と自分の家族の健康を考えたら、毎日の家庭における「正しい食生活」こそが基本です。


ですから私の家では、「プロなればこその技、味」これを楽しむために外食をすると決めています。 
自分の家で作れる料理を、わざわざお店に行って、お金まで払って食べるのは「ただの手抜き」と考えているからです。 
だからと言って、我が家の家庭料理のレベルを低く設定する気持ちなど、もとよりありません。 
つまり「家庭料理の役割」と「プロの料理の役割」は違うと考える方が、よりバランスの取れた、しかも変化もある「食生活」を送ることが出来るのではないでしょうか。


今回の「プロが作るようなトロトロオムライス」、そこにはレベルの高いオムレツを作れるかどうかという高いハードルがあります。 
普通に考えるなら、これは「プロの料理人の領域」に属する仕事だと思います。 
自分で作るのは、普通の卵焼きでくるまれた「オムライス」、これでよいのだと思います。
家族の健康を支える「我が家の味」、これが一番大切ですし、これが基本です。


一見、普通のオムライスなのだけれども、一箇所だけでいいから「我が家特製」の部分がある。 
結構このことが大切なのだと思います。 
家庭料理は毎日のことです。 
外食は「タマ」のことです。 
小さな特徴の裏にある大きな愛情、小さなサプライズに隠れている家族に対する強い思い、大人になって思い出す「お袋の味」の隠し味はこんなところにあるのではないでしょうか。
のは、実はこうしたことではないでしょうか。

Q:パラパラチャーハンが上手く出来ないのです。

子供も大人も好きな人が多いチャーハンですから、美味しいパラパラチャーハンを、是非ともご自宅でも作りたいですよね。
しかし、結構多くの方が、ご飯を中華鍋に焦げ付かせてしまったり、ご飯の粘りけが残ったままで米粒同士がくっついてしまったりしているようです。
どうしたら、パラパラチャーハンが出来るようになるのでしょう。


中華料理店の料理人が、どのようにしているか、ご覧になった方もいらっしゃると思います。
プロは、①十分温まった大きな「鉄」の中華鍋に、②多めに油をそそぎ入れ、③油の温度が調理温度に達したら溶き卵を入れ、手早くかき混ぜ、④卵が半熟状態になったらすぐ、ご飯を入れ、中華鍋を振りながら炒めます。
⑤途中で具を混ぜ、⑥最後に味を整え、チャーハンが出来上がります。
見ていると、本当に短時間で美味しいチャーハンが出来上がります。
プロと家庭では、何がどう違うのでしょうか。


まず違いそうなのは、調理温度のように見えます。
これが分かれば、大したものです。
プロは、常に鍋の表面温度には、細心の注意を払います。
それだけ、調理温度が重要だということです。
これまで、チャーハンが上手くできなかった方、調理温度にどのくらい注意を払っていたでしょうか。
調理温度と熱量、炒め物料理は、これで善し悪しが決まってしまいます。
是非、調理温度と熱量に敏感になって下さい。


正しい調理温度、そしてたっぷりの熱量。
美味しいパラパラチャーハンを作るには、これが大切ですが、これを決めるのが、「コンロの火加減」と「道具」です。
しっかり温まった炒め鍋から、正しい温度がたっぷり供給される必要があります。
最適な道具は、鉄板製の中華鍋・炒め鍋、そしてセラミックコーティングの炒め鍋です。
鍋の温度は、180℃です。


まず、コンロ上で鍋を温めます。
鍋の淵の高さに、手をかざして温度を感じて下さい。
ちょっと熱めの焚火、あたり始めは暖かくて気持ちがいいけれど、ずっとあたっているのは無理、手がこう感じる温度が、約170℃~180℃です。
この状態の鍋に、中華お玉1杯分の油を入れます。
鍋をゆっくり回しながら、鍋肌全体に、しっかりと油を馴染ませます。
温度を確認するために、途中でネギの切れ端を入れてみて下さい。
ネギの表面の色が、ゆっくり「キツネ色」になったら、油の温度も、約180℃です。
これ以上温度が上がってはいけませんので、ちょっと火加減を弱くします。
ここでもう一度、手を鍋にかざして、この温度をしっかりと覚えて下さい。
何故かって?
人間のセンサーは、一生使えるからです。
これって、料理上手になるための、大きなポイントです。


この油を、一度オイルポットに戻し、チャーハン用の量の油を鍋にいれ温めて、いよいよチャーハン調理の開始です。
プロは、最初に溶き卵を鍋に入れ、半熟状態になるや否や、ご飯を入れて、一気に混ぜ始めますが、普通の人はプロほどのスピードはないですし、あの見事な鍋ふりはまず無理です。
普通の家庭で、失敗せずに、卵とご飯がきれいに混ざったチャーハンを作るには、炒める直前に卵とご飯をボールで混ぜておきます。
それを、全部鍋に入れ、お玉でかき混ぜながら炒めます。
この方法で、完全にパラパラになります。
ご飯一粒一粒が完璧にタマゴで覆われ、そのタマゴが油を吸収する、その結果米粒同士がくっつきにくくなります。そしてパラパラのチャーハンになります。

パラパラな「卵ご飯」が出来たら、具を入れ、塩で味を調え、さらに炒めます。
最後に香りを付けるために、醤油を少々回しかけ、軽く炒めたら出来上がりです。


パラパラチャーハンを作るためには、もう一つ大切なポイントがあります。
それは、一度に炒める「量」です。
プロのように、強い火力を使いこなす技術は、一般家庭では普通は無理です。
ですから、一度に炒める量を二人分までにしましょう。
この意味は、熱量に対してご飯の量を多くし過ぎないということです。
どうしても、一度に多く炒めると、ご飯の水分が飛びにくく、ご飯一粒一粒がパラパラにほぐれるチャーハンはなかなかできないのです。


では、パラパラチャーハンにチャレンジしてみてください。



Q:「焼く」と「揚げる」はどう違うの?

「焼く」と「揚げる」の違いを、正確に意識して、調理している方って、実は意外と少ないのではないでしょうか?
加熱調理の応用編ですから、しっかりと理解しておきたいですね。


「焼く」と「揚げる」の違い、殆どの方が意識せずに、焼いたり、揚げたりしているのだと思います。
でも、違いを知っておくと、調理のレベルが確実にアップします。
普段、見過ごしていることに気が付くと、調理の腕は間違いなく上がってきます。
しかしこれは、調理に限ったことではなく、どんな事についても言えることですね。



では、「焼く」から説明しましょう。
「焼く」という調理法のポイントは四つあります。 
①食材に含まれる水分を奪う、つまり「脱水」です。
②「焼く」ことで、香ばしい香りがします。
③こんがりきつね色した、美味しそうな「焼き色」が食材表面につきます。
④食材の身がしまります。



「脱水」:食材を焼く温度は、もちろん食材によって違いますが、150度~180度という範囲に収まります。 
つまり、「焼く」温度は100度以上ですので、食材に含まれる水分は水蒸気となり、食材の外に出て行きます。 その結果、食材中に含まれる水分は、焼く前と比べると、相当に減ります。

 
「香り」:焼くことで、食欲をそそる、よい香りがします。
この「香り」の正体は、三つの要素によって出来ています。 
(A)カラメル
プディングを作ったことがある方はすでにご存知ですね。
糖分は、加熱されると、溶けてきて、次第に透明なアンバー色になります。
この時、良い香りがしますが、この状態を「カラメル」と言います。
この香りが一つ目の要素です。
(B)油/脂の香り
食材をフライパンで焼く時、フライパンに「油」又は「脂」を敷きます。 
お肉にはもともと「脂」があります。 
「油」も「脂」も、加熱され150度を超えると、化学反応が起きて、カラッとした「油」や「脂」独特のよい香りがし始め、170度~180度でもっとも良い香りがします。 
この香りが二つ目の要素です。 
(C)メラノイジン
糖分とたんぱく質が一緒にある時、又はアミノ酸と糖分が一緒にある時に、加熱温度が150度を超えると「アミノカルボニル反応」という化学反応が起きます。この時、大変食欲をそそる匂いがする「メラノイジン」という物質ができます。 
日本の落語には「うなぎ屋の前」に立って、匂いだけを嗅ぎながら御飯を食べる、という噺がありますが、この匂いがメラノイジンの香りです。 
これが三つ目の要素です。



「焼き色」:「香り」の三つの要素が全部揃った時、食材の表面は、美味しそうな「こんがりキツネ色」になります。 
「こんがりキツネ色」=「美味しく焼き上がったサイン」ということです。
「目で食べる」「見て美味しい」という言葉があるぐらいですから、やはり料理は「目にも美味しく」なくてはいけませんね。
これも大切な要素ですから、是非覚えておいて下さい。



「食材の身がしまる」:食材に含まれる水分が蒸発して少なくなり、たんぱく質などが加熱されて固くしまる、その結果歯ざわりが良くなります。 
「食感」がいいと言いますが、このことですね。
但し間違えてはいけませんが、固ければ良いいというものではありません。
自分が美味しいと感じる固さ、心地よい固さ、これが大切です。
固さは、食材への火の通し方で調節出来ますので、食材の表面は「カリッと香ばしく」、中は「アツアツのジューシー」、これが理想の焼き上がりであることを覚えておいて下さい。



「香り」「焼き色」「食感」、この三つに「食材の中はアツアツでジューシー」が加わって、「美味しい焼き物」の完成になります。 温度も味のうちですから、熱いうちにいただきましょう。



次は「揚げる」調理法です。 
なんのために揚げるのでしょう? 
もちろん美味しい料理を作るためですが、美味しさにも様々あります。 
「揚げる」目的は二つあります。 
①香ばしい揚げ油の香りがする、
②揚げ物でしか得ることのできない「食感」の良さ、この二つです。



「香ばしい揚げ油の香りがする」:「油」や「脂」を軽く見てはいけません。 
肉やさんのコロッケ、ミンチカツが美味しいわけを考えたことありますか? 
お家でコロッケを揚げても、なぜかあの「肉屋さんのコロッケ」の美味しさが出ませんね。
理由は簡単です。 お家でコロッケを揚げる時に使う油は、普通の家では「サラダ油」が圧倒的に多いのですが、お肉屋さんは「ラード」で揚げるのです。 
加熱したサラダ油の香りと比べてみて下さい。「香り」が全く違います。 



天ぷらの場合でも、人によっては「胡麻油」「菜種油」など、好みが分かれます。 
揚げ物に使用する「油」「脂」、香りだけでもいろいろとありますね。 



「揚げ物でしか得ることのできない『食感』の良さ」:揚げ物調理の場合は、150度~180度といった高温の「油・脂」で、食材全体がくるまれてしまいます。
その結果、「焼く」調理法と比べた場合、食材に含まれる水分の蒸発量がはるかに多くなります。
食材が衣で覆われていても蒸発する水分量は多いですが、空揚げの場合は一段と蒸発が早くなりますし、蒸発量も多くなります。
その結果、焼き物とは異なって、表面が「軽くサクッ」、となります。 
一方の焼き物の表面は、「香ばしくパリッと」です。 
この食感の違いこそが揚げ物の特徴です。 
天ぷらの衣をなぜ軽くするのか、衣から水分が蒸発し、変わりに油が入れ替わります。 この食感が、限りなく軽く、しかもサクサクしていてもろいこと、これこそが揚げ物の美味しさの重要なポイントです。 揚げ物にしかない「食感」です。 
だからこそ、他の調理法ではさして美味しい味にならない食材が、揚げたら絶品なんていうものになったりするのです。 魚の「ぎんぽう」「はぜ」「きす」などは、まさにその代表です。


100度以上の温度で調理する「乾熱調理法」「脱水調理」という意味では、「焼く」も「揚げる」にも共通する部分も多々あります。 しかし違う部分もあります。 ここで一番大切なことは、「より美味しい」料理にするにはどの調理法を選択するか、ということです。



料理の大切な基本になりますが、美味しい料理にとって一番の基本は、なんと言っても「良い食材」です。 
これを調理する時に大切なのが、「食材の長所を上手に引き出し生かすこと」そして「食材の欠点を長所に変える、あるいは欠点を消す」、この二つです。
だからこそ様々な加熱法が考えられてきたのですね。



いろいろなことに興味を持ち、意味を知って行く、そうすると料理はどんどん楽しくなります。 
基本知識をしっかりと身に付ける、いろんな知識をどんどん吸収する、そして自分の想像力を豊に発揮する。 
料理以外にこんなことが楽しめるジャンルはそうそうめったにあるものじゃありません。
どうぞ、もっともっと料理を楽しんで下さい。
プロフィール

岡山晄生

Author:岡山晄生
--Okayama Akio----------
株式会社リバーライト代表
調理道具研究家・家庭料理アドバイザーとして講演・執筆活動なども行なっている。著書に『料理のきほん食の常識』(グラフ社)等


料理の基本/食の常識
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